FUATURE #01 坂野公一/グラフィックデザイナー

期待で止めるのが装幀の仕事

まだ人々が"レコード"で音楽を聞いていた頃、見知らぬアーティストの作品をジャケットデザインに釣られて購入する、所謂"ジャケ買い"という言葉があった。大きなレコードアルバムはジャケットの存在自体がアート作品だったのだ。

ネットを通じたダウンロード販売が一般的になった現在では、ジャケ買いの楽しみも無くなってしまったが、かろうじて書籍の世界において"ジャケ買い"ならぬ"装幀買い"を楽しむ人も少なくない。

そこで今回は、これまでに数多くの書籍装幀を手がけてきたグラフィックデザイナーの坂野公一氏に装幀の難しさと魅力について伺った。

 

恩師、杉浦康平との出会い

横浜のとある住宅街に、突如として出現した近未来的な建造物に坂野氏の仕事場がある。玄関を入ると、横の壁を利用した本棚があり、そこには日本的なテイストの文芸書からアニメ調のイラストが描かれたライトノベルまで、実に多種多様なジャンルの書籍が並べられている。これらはすべて坂野氏が装幀を担当した書籍たちだ。

そもそも、坂野氏は神戸芸術工科大学を卒業後、ソニー(株)に勤務し、製品マニュアルを制作する部署に所属していた。しかし、「わかりやすさ」を追求する理念とは裏腹に、コストセーブ、作成効率重視の仕事に疑問を感じていたある日、大学時代の恩師である杉浦康平氏に仕事の手伝いを頼まれ、氏の事務所へ出入りするようになる。

坂野氏の恩師である杉浦康平氏は、「遊」「全宇宙誌」「噂の眞相」のデザインを担当するなど、日本における装幀・ブックデザインの草分け的な存在だ。折しもMacintoshがデザイン業界に出回り始めたばかりの頃で、在学中にMacを使ったことのある坂野氏にお声が掛かったというわけだ。

「はじめはもちろんデザインの仕事などはさせてもらえませんでしたよ。しかし、Macでの作業が増えるにつれて、デザインの仕事もさせていただけるようになって、結局杉浦先生のところでは7年間もお世話になりました。」

本として

独立の契機となったのは、坂野氏を指名する仕事の依頼があったことだ。そして、飛躍のきっかけとなったのは、作家・京極夏彦氏の作品である「豆腐小僧」の装幀を担当したことだった。

「知人の紹介で京極先生と会わせていただいたのですが、実績のない僕に対して機会をくださった。恐らく不安は大きかったかと思いますが(笑)。ですがそれ以来京極先生の作品の装幀を多く担当させてもらっています。」

本のテーマと坂野氏のデザインがうまくマッチし、「豆腐小僧」は京極夏彦氏もお気に入りの一冊となったそうだ。

坂野氏ショット

本棚ショット


坂野氏の出世作となった京極夏彦著の「豆腐小僧双六道中(右)」

坂野氏の出世作となった京極夏彦著の「豆腐小僧双六道中(右)」

装幀という仕事

「豆腐小僧」の成功以来、坂野氏を指名しての仕事がどんどん増えていった。 「本って塊じゃないですか。書籍カバー自体は平面のデザインなんですが、出来上がった時は塊として存在するわけで、その仕上がりを想像しながらデザインするのはとても楽しいですね。」

ちょうど、取材当日にも京極夏彦氏の最新刊カバーの色校正が出来上がったばかりで、既刊本に巻いて出来上がり具合を確認していた。

「カバーデザインは、そのカバーを見た人に、本の中身を想像させることが目的なわけですが、語り過ぎてもいけない。飽くまでも内容を期待させるところで止めておくことが重要なんです。」

人間の感情の中でも"喜び"や"悲しみ"は、何かしらの事象が起こった結果として得られるものだ。したがって、そうした感情を喚起させるには、事象を描きだせばよい。

しかし"期待する"という感情は、すべてを語ってしまって得られる感情ではない。語ることはある程度の所で止めて、その先を知りたいと思わせることで初めて得ることのできる感情だ。

その加減が難しくもあり、楽しくもあるのだと、坂野氏は語ってくれた。

色校ショット


本棚ショット

届いたばかりの色見本をチェックする坂野氏

コミックのカバーデザインにチャレンジしたい

これまでに多くの書籍の装幀を手がけてきた坂野氏だが、今後はどのようなジャンルを手がけてみたいかとの質問には次のように答えてくれた。 「文芸書や実用書の装幀をする機会が多かったので、これからはコミックの装幀も手がけて行きたいですね。」

これまでにも漫画家の諸星大二郎さんが執筆した小説の装幀を担当したり、コミックの装幀を手がけられているが、コミックの装幀は文芸書のデザインとは異なるのだろうか。

「コミックの場合、原則的に装画を作者が描きます。ゆえに、「素材」に困ることはないのですが、それだけでデザインが完結してしまわないように気を使うと思います。表紙を見て、そこからストーリーを想像してもらえるようにしたり、その本自体に深い愛着を持ってもらえるように仕上げるのが、デザイナーの仕事ですから…。」

"寸止め"のデザインが求められるという点では文芸書もコミックも一致していると坂野氏は言う。しかし、原作者が作り上げたビジュアル的な世界観をふまえたうえで、装幀としての魅力を引き出さなければならないし、作品と装幀の間にイメージの矛盾が起こってはいけない。そこに文芸書の装幀にはない難しさがあると考えているそうだ。

色校ショット


コミックのカバーデザインにチャレンジしたい

実は、apolloがテスト公開した時に真っ先に参加してくれた一人が坂野氏だった。現在でも坂野氏のマイページでは、氏が制作に携わった書籍の装幀を見ることができる。

「apolloは、これまでのSNSや画像投稿サイトとは違って作品を大きく表示できるので、見た目の強さ、潔さが好き。また、システム的にもお友達をつくることが目的ではないので、フラットな感覚で利用できるのがいいですね。」

自身がデザインした装幀の仕事だけでなく、オフィスに飾られているアクセサリーの写真を投稿してくれるなど、公私にわたってapolloを楽しんでくれているようだ。

今後もapolloを活用していきたいと語ってくれた。

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Profile

1970年生まれ神戸市出身。神戸芸術工科大学を卒業後にソニー株式会社へ入社。製品マニュアルのエディトリアルデザインを担当する。ソニー退社後はグラフィックデザイナーの杉浦康平氏に師事し、書籍の装丁デザインを学ぶ。独立後は、作家京極夏彦氏の単行本カバーデザインを担当するなど、グラフィックデザイナーとして活躍している。

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